みんからきりまで

きりみんです。

母のブレワイ

僕の母は元々ゲームを全くしない人だった。
僕が子供の頃にはゲームをそれなりに買い与えてくれたが、本人はマリオワールドの1面で挫折し、母が興味を持って買ってきたゼルダの伝説時のオカリナもコキリの森を出る前に「全然何をやっているのか分からない」といって興味を失ってしまった。

そんな母だが、スマホを手に入れてからはツムツムのようなミニゲーム系のアプリをやったりしはじめたし、数年前にSwitchをプレゼントしてからは少しだけコンシューマのゲームもするようになった。
具体的にはあつまれどうぶつの森ピクミン4はクリアするまでやった。母がピクミン4をクリアしたと聞いた時は結構おどろいた。どちらの作品も最初は操作などにかなり戸惑いつつも、根気よく続けていたようだ。
そして、ゲーム好きの自分としては母にもっと名作ゲームに触れてほしいという欲が湧いた。
色々とおすすめしたいゲームはあったが、Switchを持っているならばやはりRPG最高傑作と名高いゼルダの伝説ブレスオブザワイルドをぜひやってみてほしいと思うのは自然な感情だ。
だが、本当に母のようにゲームにほとんど触れてこなかった人間がオープンワールドアクションRPGというものに耐えられるだろうか?という疑問は当然あった。
それなりに葛藤したが、結局は母にブレワイをやってもらうことにした。
正直、1年くらい掛かってでもクリアして貰えればいいという気持ちだった。

ゲームが苦手な人間がブレワイをプレイするとどうなるのか

ブレワイを始めた母の様子を、特に序盤はずっと観察していた。
残念ながらもう母がブレワイを始めてから半年以上経っているし、メモなどをしていなかったためにプレイの様子については曖昧な記憶しかない。
特に序盤の記憶は曖昧だけど、それでも見ていて面白いと思ったので思い出せる限りで書いてみる。
なお、この文章には当然ながらブレワイのネタバレを多いに含んでいるので注意してもらいたい。

始まりの台地

最初は移動や視点切り替えも苦戦していたが、それほど時間がかからず洞窟から脱出しおじいさんのところまでたどり着き、そのまま最初のボコブリンに遭遇した。
母は戦闘描写などが好きではないので拒否感を示すかと思ったが、特にそんなこともなく、逃げ回りながらもなんとか撃退することが出来ていた。
ここまでは予想外に順調で驚いたが、母は別の部分で苦戦し始めた。始まりの大地ではしばらくウロウロしているとゼルダ姫がテレパシーで次の行き先のヒントをくれる。次の目的地は塔が埋まっている場所だ。これはマップを見ることのチュートリアルにもなっているわけだが、母にはそれが理解出来なかった。次の目的地に何かしらのマーカーが付くというオープンワールドのお約束も知らないし、この時点ではマップが開放されていないため、真っ黒の画面に謎の印が付いているだけに見える。そしてミニマップはUIが小さすぎてそもそも視認出来ていない。
この時点で母はどうすればいいのか全く分からず、時の神殿を周辺をひたすらウロウロし続けていた。アドバイスをするべきか迷ったが、こんなところで詰まっていても仕方がないので、「ここに向かうんだよ、ほら、マークが付いてるでしょ」と言って塔へ誘導した。まだマップの見方が分かっていないので、自分がどっちへ向かっているのかも分からない状態だが、やや強引に進めさせた。

塔のイベントが終わり、次は祠へと向かう(向かわせる)。最初の祠ではマグネキャッチを取得出来、そのチュートリアルダンジョンが待っている。
入口のフロアから次のフロアへ進むためには、マグネキャッチを使って足元の鉄の扉をどかさないといけない。
母はこのギミックが分からず、ひたすら壁や柵に向かってマグネキャッチを連打したりしていた。まあここはVTuberなどでもわりと詰まりがちなギミックなので、出来るだけ答えは教えないように眺めていた。しかし、30分くらい経っても全く進みそうな気配がなくて投げ出しそうな雰囲気になってきたので、答えを教えてしまった。母は「そんなの分かるわけがない」とひっくり返っていた。マグネキャッチで動かせるものは色が赤くなっているというのも、何度も指摘してようやく理解したようだった。

1つ目の祠をクリアしたあとは、始まりの大地の残り3つの祠を探してクリアすることになる。
母はまだ地図を見る癖がついていないため、地図を開かせて「ここを目指すんだよ。ほら、ここが今いる場所で...」と誘導して祠を回らせた。
ここで双眼鏡を使いマップの任意の場所にマーカーを付けるというチュートリアルが入るが、母には何のことかさっぱり分からないようで、実際に操作して見せても何が起こっているのか分からない様子だった。

爆弾がもらえる祠のダンジョンでは、爆弾を装置に入れて飛ばすギミックが分からずまた30分くらい詰まっていたので答えを教えてしまった。 ビタロックがもらえる祠のダンジョンでは、同じように固めた岩を叩いて吹っ飛ばすというギミックを代わりに解いてしまった。
教えすぎだろと思う人もいるかもしれないが、この時点の母はあまり考える意欲がなく、「どうして教えてくれないの?教えてよ!」とお願いされるし分からなかったらそこでやめてしまいそうでもあったので、つい教えてしまっていた。(母が1日にゆっくりゲームを出来る時間が1,2時間くらいしかないという問題もある)

雪山の祠へは、一応正規ルートである「おじいさんの小屋でヒントを見つけ料理を作って厚手の服を手に入れる」というルートは辿らず、何度も凍死で死亡しながらゴリ押しで辿り着いた。
アイスメーカーがもらえる祠のダンジョンでもそれなりにハマってなんとかクリアさせた。

祠めぐりが終わると次は「4つの祠が交わるところ」へ行けと指示される。ここで母はかなり詰まった。地図を見ても「4つの祠が交わるところ」がどこか検討も付かず、回生の祠の周辺をひたすらウロウロしていた。ただここは放っておけば勝手に時の神殿に辿り着くだろうと思い具体的なアドバイスはせずに眺めていたら、そのうち偶然に時の神殿に辿り着いた。そして時の神殿の屋根に登る方法が分からずまたかなり詰まっていたので、「さっき来た時にハシゴがあるの見たじゃん」とアドバイスした。

これでようやく始まりの大地編が終わるわけだけど、正直な感想としては思っていたよりも順調に進んでいるな、という印象だった。始まりの大地から出られないまま一生うろうろして遊んでいてもおかしくない、と思っていた。だが、この時点では母は「探索する」という行為に別に楽しみを感じていないようだったし、結構助言をして導いてしまったのでそんなものかもしれない。
しかし母のブレワイの本当の試練はここから始まるのだった...。

カカリコ村

パラセールの使い方を教え、始まりの大地を出ると、いきなり広大なハイラルの世界に放り出される。とはいえ、目的地のカカリコ村はふたご山の向こうという情報が出ているので、「だいたいあっちの方向に向かうんじゃない?」とアドバイスし、道なりに進んでもらった。
途中のふたご山のふもと付近には塔があるが、母が完全にスルーしたので「そこの塔に登るといいことがあるよ」と誘導した。ふたご山の渓谷には祠もあるが、これもスルーするので「そこに祠があるよ」と言ってしまった。完全に指示厨である...。
なお、道中で何度かボコブリンの群れなどに遭遇しては繰り返しゲームオーバーになっていた。この時点では母はHPというのもあまりよく理解出来ていないし、回復は生のリンゴやハイラル草に頼っているし、何よりもアクションのスピードに判断が追いつかないので何か行動をしようとする前にやられてしまう。
とはいえブレワイの戦闘に強制のものは少ないので、適度に逃げ回ったりしてなんとかなっていた。

馬小屋はスルーしたが、ボックリンはさすがにスルーすると不便すぎるので、助けてあげるように助言した。マラカスを取り返すためにちょっと強めのボコブリンと戦う必要があり、ここでもかなり苦戦していたが、なんか最終的には遠くからの爆弾で地道に削り続け見事に勝利していた。
とはいえこの時点で母はコログの実を一つも持っていなかったので、カカリコ村の入口にいるコログを見つけてあげて、武器ポーチが増やせるよということを教えてあげた。

カカリコ村ではここまでで最大の試練が待っていた。カカリコ村にある祠ではラッシュ攻撃のチュートリアルがあり、横っ飛びやバク転をする必要があるのだが、母には複数のボタンを同時に操作するというのがかなり難易度が高く、全然進めなくなってしまった。ここは謎解きではないのでアドバイスすることも出来ず、ひたすら見守るしかなかった。
「もう無理、ゲームやめようかな...」とまで言い発狂寸前という感じの母だったが、根気よく(2時間くらい)チャレンジしてようやくクリアしたので「天才!」と褒め称えた。なお今後実践でラッシュ攻撃を使いこなせるかどうかはまた別の話である。(まあこれはだいたいの人がそうだと思う)

その後、これもスルーするとダルいと思ったのでさり気なく大妖精の泉にも誘導した。

~ハテノ村

さて、カカリコ村で神獣の話を聞き、ここから本格的なオープンワールドというか自由な進行が始まるのだが、母はどこへ向かえばいいのか分からず、カカリコ村の裏手の草原あたりをひたすら彷徨ったり敵に襲われてゲームオーバーになったりしていた。
「とりあえずハテノ村ってところに行ってみたら?」とアドバイスし、ハテノ村を目指して貰った。
正直このあたりはそんなに特筆するようなことはなく、母もようやくマップを見て目的地を目指すということにも慣れてきたようで、わりと安定したプレイになっていた。相変わらずミニマップはUIが小さすぎて全く目に入っていないようだったが。
順調にハテノ村のイベントを終わらせた。
この頃、母に「ゲームをどんどん進めてクリアするのと色々寄り道したりするの、どちらの方が好き?」と聞いたら「うーん、ゲームを進めたいかなぁ」と言っていたので、「やはりいきなりオープンワールドRPGを体験させるのはよくなかったか?オールドタイプのRPGを知っているからこそのオープンワールドの感動なのではないか?」という気持ちが湧いてきたが、これは後に杞憂であると分かる。

~水の神獣

次は順当に行けばゾーラの里だろう。また母が次の行き先に迷っていたので、それとなくゾーラの里ルート近くの塔を目指してみたらいいんじゃないかと誘導した。
道中いくつかの祠を見つけたが、謎解きは本当に苦手なようで、だいたい僕が教えたり代わりにやってあげたりしてしまっていた。

シド王子と出会い、ゾーラの里を目指す。道中には雷の矢を使う敵やエレキキースなどがいて、ここでも何度もゲームオーバーになっていたが、まあゴリ押しでなんとかなっていた。

ゾーラの里に着くと雷獣山に登り雷の矢を集めてくるように言われる。ライネルから隠れながら雷の矢を集めるというクエストも母はかなり苦戦して何度もゲームオーバーになっていたが、本当の問題はここからだった。

電気の矢の調達が終わると、今度はシド王子の背中に乗って水の神獣とのバトルが始まる。ここが本当に鬼門だった。
実を言うと母はここまでほぼ弓矢を使わずにゲームを進めていて、弓矢の使い方や仕様が分かっていない。更にエイムという概念もないほど絶望的にアクション操作が苦手なので、まず神獣の繰り出す氷塊を壊すところで全くアイスメーカーを当てることが出来ず、途方もない時間を消費していた。
更にようやく氷塊を壊しても今度はジャンプした状態で空中から神獣の弱点を雷の矢で撃ち抜かなければならない。まずどこが弱点部位なのかもよく分かっていないし、空中で弓を構えるとスローモーションになる代わりにガンバリゲージが急速に減るという挙動が理解出来ないために、弓を構えて狙おうとしてもすぐにガンバリゲージがなくなり落ちてしまう。
HPゲージを見るという習慣もないために、何度もダメージを受けているうちに回復しなければいけないことにも気が付かず死んでしまい「あれ!?なんで死んだの!?」という反応になる。
頑張って少し進めても途中で雷の矢が枯渇して詰み...というようなことも繰り返し、かなり挫折状態になってしまった。
ここでゲームを諦めてしまうと悲しいので「だんだん上手くなってるじゃん!」「もう少しで倒せるよ!」と励ましまくっていた。
そんな母でも、根気よく続けていれば少しずつ上達し、見守るのにも飽きてきた頃にようやくクリアすることが出来た。

神獣内部の謎解きも、かなり苦戦しながらもゴリ押し気味でなんとかクリア出来た。
そして水のカースガノン戦。ここもまた鬼門で、第一形態の普通に戦うモードはゴリ押しで倒せるのだが、第二形態の足場がなくなり氷塊を飛ばしてくるモードではどうやって倒せばいいのか攻略法が分からず、ひたすらアイスメーカーで氷塊を壊すだけで精一杯、弓矢やビタロックを活用するというのは全然思いつかないようで、回復しようとしてもメニューを開く操作が間に合わず何度も何度もゲームオーバーになっていた。
ここでも挫けかけていたが、最終的には弓矢で攻撃することをアドバイスし、なんか運良く敵がダウンした時に攻撃がハマり棚ぼた的に勝利を収めていた。

正直これはかなりの快挙だと思った。
神獣の難易度はどこも大差ないので、この時点で母はブレワイに勝利したといっても過言ではない。
人間、やれば出来るものだ。

~火の神獣

次はゴロンシティに向かい、大砲の使い方が分からずハマったり、ユン坊を引率して飛行ガーディアンをかわすところでも詰まってサポートしてあげたりしたが、なんとか火の神獣内部に侵入することに成功した。
ところが、ここで母は「ダンジョンをクリア出来る気がしない」と言い出して、進むのをやめてしまった。
この母の行動が予想外の方向に向かうことになる...。

母、オープンワールドの面白さに目覚める

火の神獣から逃避した母は、それまでほとんどしていなかった塔の開放をやり始めた。
塔でマップが開放されると探索する余裕が出てきたらしく、今度は祠探しをし始めた。
祠のダンジョンは最初こそ僕に「解けないからやってくれ」と言っていたが、この頃から僕が母のブレワイを見守るのもだんだん飽きてきて放置するようになると、自分で攻略サイトを見たり根性でクリアするようになっていった。
更にこの頃から段々と「岩を壊すと鉱石が出てくる」「怪しいところにはコログや宝箱がある」「村人に話しかけるとクエストが発生する」といった要素が面白くなってきたようで、自由に世界を楽しむようになっていった。

それからの細かいことはよく知らないが、いつの間にか全ての塔を開放し、色々なサブクエストをクリアし、それどころか「イワロックを倒したよ!」とか「ヒノックスを倒したよ!」とか報告してくるようになった。序盤では序位にも刃が立たなかった力の試練の極位までクリアしたと聞いた時は驚いた。

ずっと後回しにしていた神獣攻略も再開し、火の神獣のギミックは僕がかなりサポートしたものの、風の神獣と雷の神獣は自力で(攻略サイトを見ながら)クリアしたらしい。
難しいだろうなぁと思っていた思い出のウツシエ探しもコンプリートし、あとはハイラル城を攻略しガノンを倒すのみとなっているようだ。
ガノンに挑むのは不安らしくてしばらくゲームから離れてしまっているようだが、正直ここまで来たらブレワイをクリアしたと言っても過言ではないだろう。
母がここまでやれるとは思っていなかったので本当に嬉しかった。

母のブレワイを振り返って

正直、最初は本当にシステムが何も理解出来ていなくて、家事や仕事はどちらかというとテキパキとこなす母がどうしてゲームになるとこんなに何も分からなくなってしまうのだろうと不思議だった。
また、アクションが苦手なのは分かっていたが、それよりも謎解きが致命的に苦手だということにちょっと衝撃というか不安を感じたりもしたが、結局のところゲーム経験値、お約束をどれだけ知っているかの差が大きいという気がした。何しろこっちは物心が付く前からRPGをやっているのだ。

あと、素晴らしいニンテンドー作品の中でも最高傑作とも言われるブレワイでも、ところどころゲーム初心者には不親切な部分もあるなぁという気付きがあった。例えば弓矢のチュートリアルらしいものがない事とか、HPバーやミニマップなどのUIが小さすぎて意識しにくいことなど。武器や防具の強さや料理の回復量などのUIも極限までシンプルになっていて、ゲーム慣れしている人であれば意味が瞬時に分かる一方で、ゲームをやらない人には理解しにくいのだなと思った。

まあそれでも最終的にRPGというものにほとんど無縁だった母を夢中にさせオープンワールドの魅力も十分に伝えられたブレワイは凄いゲームだなと改めて思った。
あと、結局は僕が側につきあれこれ教えなくても、放置していた方が成長が早かったのでは?という気もした。このあたりのさじ加減は難しい。

母がブレワイをクリアしたら次は何をオススメしようか。せっかくRPGの遊び方を理解したのだから、ポケモンドラクエなどの名作にも触れてほしいと思う一方で、最初にブレワイを体験してしまうと普通のRPGは楽しめないのではないか?という不安もあり悩ましい。